ダンサー・イン・ザ・ダーク
全編手持ちカメラを多用した「奇跡の海」(96)で絶賛され、カンヌ映画祭でグランプリを獲得したデンマーク出身のラース・フォン・トリアー監督・脚本によるミュージカル…
(2008/10/16)

全編手持ちカメラを多用した「奇跡の海」(96)で絶賛され、カンヌ映画祭でグランプリを獲得したデンマーク出身のラース・フォン・トリアー監督・脚本によるミュージカル。90年代の映画シーンで頭角を現した映画作家のうち、最も例外的な1人と言っても過言ではないトリアーが、カンヌ映画祭パルムドールを獲得しその地位を不動のものにしたのが本作。ちなみに彼は95年に始まった映画運動“ドグマ95”の中心的人物だが、本作はミュージカルという形態を取るジャンル映画であり厳密に言うと“ドグマ映画”ではない。だが“ドグマ”の精神は確実に反映されており、その世界観はやはり異色と言っていいだろう。おとぎ話「黄金の心」から、トリアー自身が喚起されて製作した3部作(「奇跡の海」「イディオッツ」(98))の最後を飾る本作は、無償の愛を描くと同時に痛烈に大国を批判している。ストーリーは救いようが無いほどに悲しく、不完全で醜悪な現実に対するトリアーの冷徹な視線が注がれており、“感情的な暴行”とか“芸術的な醜さ”と酷評するアメリカ人批評家もいた。確かに賛否両論の分かれる問題作であり、アメリカを舞台にしているにも関わらず撮影がスウェーデンで行われたこと(トリアーは極度の飛行機嫌いで有名で、カンヌ映画祭も頑張って車で行ったらしい)も批判の的になった。そのことが直接、監督のアメリカ嫌いということにはならないが、主人公のセルマをチェコスロヴァキア(歴史的に大国の意向で翻弄され続けてきた国、89年まで共産主義国)からの移民という設定にした点、舞台を60年代という時代(64年にベトナム戦争)に設定した点からも、自分達の大義や利益のために弱い者を陥れるアメリカを批判していることは明らかだ。アイスランド出身の歌姫、ビョークはこの演技でカンヌ映画祭主演女優賞、劇中で歌い上げた“I've Seen It All”で数々の歌曲賞を得た。また、自らトリアーに手紙を書いて出演を懇願したというフランスの大女優、カトリーヌ・ドヌーブの存在感もさすが。100台のカメラを駆使して撮影された渾身の1作、好き嫌いは別にして誰もが心臓を鷲掴みにされるはずだ。サントラ「セルマソングス」も必聴!



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